●スタッフコメント●
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  僕らがまだ何も知らなく幸福でほんのガキだった頃、
  親の目を盗み「探検」と称し毎夜自転車で街の盛り場へ繰り出していた。
  賑やかな中心部から外れた薄暗い路地裏、半分シャッターの閉まったいかにも怪しげな店の前に「その人」は立っていた。
  僕らとはどこか雰囲気の違う東洋系外国人の「その人」はとても痩せていたが何とも美しい人で、目が合うといつも優しく微笑んでくれた。
  大抵「その方面」の女性達は僕ら悪ガキを見ると罵声を浴びせ、
  その辺のモノを手当りしだいに投げつけてくるのが常だったけれど「その人」は違った。
  ただ、「その人」の微笑みは確かに表情は優しく緩んではいるのだけれど、
  その目の奥はとても冷たく何者の侵入も許さない「氷の微笑み」だった。
  僕らは美しくも儚げな「その人」に憧れ、敬意を表し「夜だけの人」という意味で「MOON」と呼んだ。というか、
  中国語や韓国語で「月」という単語を知らなかったんだ。
  そして幾つかの夜が流れ、何の前触れも無く路地裏から「MOON」の姿は消え、
  「探検」を卒業しそれぞれの居場所を見つけた僕らは盛り場にあまり寄り付かなくなった。
  でも僕は決して教科書に載る事のない、この世界の「シクミ」や「シキタリ」を教えてくれた「盛り場」と「MOON」を一生忘れない。
  …すべての青臭い夜に。
  (Text:the PinkTale Characins Vocal & Guitar:保野 立)
  
  
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  ちょうど『アカネ色ノ夢』のシナリオを煮詰めている頃のことだった。
  下北沢のライブハウスCLUB251で、the Pink Tale Characinsのライブ撮影をしようとリハから立ち会いをしていた。
  その時、"moon"という曲に何かを感じて、とにかくエンディング曲にしようと思った。
  『アカネ色ノ夢』はアカネという人間の生き方についての物語にしたかった。
  そのためにはエンディングでそれを感じさせる曲を流したいと瞬時に判断したのだ。
  …と、その時のことを振り返ってみる。
  "moon"の中にあるロック。そして美しい詩。
  映像や物語だけでは伝えきれなかった何かが、この曲にはあると思います。
  ラストシーンを編集にあたって素敵な曲を使えることができて僕は幸せものです。
  ピンカラのみなさんには、ほんとうに感謝しています。
  残念だったのはエンディングが短くて、レコーディングしてくれた曲の全部が流せなかったこと。
  今回、ライブ版で全てを聴いてもらえるのは僕としても大変嬉しいことです。
  (Text:Director, Hiroshi Matsuo)