TERA:次は『夜叉』いきましょうか?
今村:『夜叉』ねー『夜叉』。そうそう。『夜叉』は「グループエンカウンター」っていうこの映画を撮るためだけのチームが組まれて、降旗監督で大作さんなんかを中心にしてお声がかかったの。前に、実は『魔の刻』というセントラルフィルムの写真があるんだよね。これで、降旗康男さん及び木村大作さんとお付き合いしたの。それで、やってる途中で、「リキさん、次なんかスケジュールあるの?」って言われて、「はい?」っていったら実は次こういうの考えているんだけど、やってくれんか?っていうことでいうと、降旗康男さんは東映出身の監督で、助手のころに4,5本お手伝いしたことがあって、顔は知ってるっていう関係ではあったけれども、そうね、降旗康男さんが『冬の華』っていうそれまでの日本にあるヤクザ映画と違う匂いの映画を撮って、降旗康男っていう作風っていうか、ラインができて、その流れだね。『冬の華』『居酒屋兆治』の次の作品なんだよ。これが高倉健さんを主演にしての3本目の映画になるわけだけれども。2人とは『新網走番外地』っていうようなお手伝いしとるんだけれども、僕が1本技師として、いわゆる東映っていうところで育ったことある先輩監督、そしていわゆる超看板俳優というかね、大スターと一緒に仕事できるってんで、非常にうれしかったんだなって思う。この仕事は。
TERA:東宝作品ですよね?
今村:うん。東宝で僕はもちろん初めて美術の仕事するんだけれども、映画会社っていうのは「5社」というように松竹、日活、東宝、大映、東映ってあったんだけれども、もうこの頃すでに大映なんていうのは、もう映画がなくなっている状態だったの。でもそれぞれがね、それぞれのカラーを持ってる。特に僕ん所(東映)で言えば、美術のものの作り方も違うわけよ。各撮影所で。で、面白かったね。でも寸法も全然違ったりとかね。非常にそういう裏での苦労があったかなぁ。
TERA:で、セット的には?例えばオープニングの健さんの、、。
今村:大阪の洋食屋っていうかバーっていうようなこのセットなんかは、割合とニュアンスの出来たものに仕上がったろうと思う。東宝でも喜んでくれたセットであると思う。僕の責めかたというか小道具の扱いであるとかね。そういうところでは「今まで東宝ではやったことのない」なんてなことがあったりして。
TERA:初めての東宝でのお仕事はどうでした?
今村:そりゃあもうしっかりした会社でね。お金の計算もしっかりしとるけれども、仕事ぶりはホントに一寸一分も狂わないって、、、会社。東映なんかになると、ホントにもう大雑把で大掴みで、そのかわり融通が何度でもきいちゃうっていう良さはある。東宝はやっぱり、親会社は阪急で関西の方から来てるとこだし、結構、予算主義っていうか計算が先に立って合理的にものを進めるっていう会社。だからそういうことだ。で、東映なんかは大掴み。ね、その間が日活。
TERA:印象的なのはやっぱり田中裕子さんがおかみになっている「蛍」という飲み屋?
今村:うんそうだろうね。この撮影現場は、若狭湾の日向っていうところ、日に向かうと書いて日向っていう所なんだけれども。そこの港のちょうど突端のいい場所が、空き地っていうか駐車場のようになっていたんで、一件お店をつくらしてもらった。うん、冬厳しいからね、ある程度しっかり作んないと、雪、風。かなりがっちり作りましたよ。もうできてあれすりゃ、もうなんのこともない前からあった様なもんだ。なんの不思議もなく。で、看板だけが新しいデザインってことで、ボン!って、そのかわり看板だけはみりゃわかると思うけど、目立つってことにして、そんなようなことです。
TERA:そのセットの制作期間は?
今村:建てたのは4、5日。東宝で全部いっぺん全部組んだの、東京でね、いっぺん組んで運んで向こうで組み直すと今度は床の高さとかね、地面のところを修正して、建てたんだ。だから、向こうではそんなかかってない。でも5、6日ぐらいかかったかな?高倉さんの家も東宝のスタジオの中に組んだんだ。『魔の刻』の時もこのようなセットを組んでるし、その前に『誘拐報道』というやっぱ、これも若狭に面した家っていう設定になってる似た様な雰囲気の家を「ショーケンの家」として組んだんだ。だけどね、『誘拐報道』の時は東映で組んでる、これは東宝で組んでる。障子なんかを二つ比べれば分かるだけど、東宝の建具なんかはシャンとしてるんだよね。これが明らかにわかるのが『それから』という写真。海に面した漁師の家、これは「蛍」の表だね。向うに橋があって、のれんと看板を、ちょっとミナミ大阪からきたという感じのデザインにしたの。
TERA:「蛍」の中もセットですか?
今村:セット。オープンでも組んだんだけど、これはほとんど東宝のセットで撮影した。そうそう。出入りできるように、向こうでは組んでんのよ。同じ様に。
TERA:「蛍」の看板おしゃれですよね?
今村:そうよ、そうしてみたというところ、田舎町にはね。で、この話ってのは原作があるわけじゃなくてこの作品のために作ったシナリオなんだけれども。そうゆう意味でいうと、ちょっとご都合がいいとこがちょこちょことあるよね。まあ田舎を使ったフランス映画ですよ。日本の港町、ジャンギャバンとフランソワーズアルヌールということなんだろうね。狙いはね。ギャング、ヤクザやってた男が港へ戻って仕事をしてた。そしたらパリの女が来ちゃった。てとこで事件が起きてくという話しなんだよね。都会っていう匂いをいっぱい付けて、そんで女っていう匂いがブンッとして、せっかく落ち着いてっていうかすべてを忘れて元のように暮らしてるのが、みんな見られる。というのがテーマちゅうかさ。大人の映画だけどさ。あのー都合がいいなんてサッキいったけどなかなか映画らしいお話の映画だった。これは身びいきだけど今言った『冬の華』『居酒屋兆治』そして『夜叉』。っていうのが高倉健さん降旗康男さんの三本になってるのね。ヒットした順番でいうと『夜叉』はそんなにいかなかったんだけれど、「映画みてて充実する」といってくれる人はいる。『居酒屋兆治』もおもしろいんだけれど、函館を舞台にしたところにものすごく無理がある。僕は思い切ってやってみたんだけどね。ホテルであるとか。
TERA:大阪ロケでなにかエピソードは?
今村:大阪ロケはちょっとだね。あそこは撮影しにくいところで、『ブラックレイン』なんかも大変だったみたいで最近は少し変わっただろうけども。
TERA:若狭ロケは?
今村:若狭には一ヶ月ぐらいはおったろう、暮れの30日に入っている。そして支度して正月の3日から撮影かな。こういう写真は、いわばこういうのも美術なんですよ、という見本で見てもらいたい。こういうのがロケセットだもんね。
TERA:この写真で新たなチャレンジはありますか?
今村:リアリズムで押すということ。『誘拐報道』なんかはそれでやったけれども。更に東宝で出来たんで。スタジオも広いしリアリズムの押しかたを追求できたかな。
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